ハ ウ リ ン キ ャ ッ ツ

 五線譜という名の線路を辿り、きみと奇跡を探しに行こう。

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「アンダルシアに憧れて」物語Ⅰ―からっぽの青空


近藤真彦が歌う「アンダルシアに憧れて」は、荘厳なフラメンコギターの演奏によるやや緩いリズムのイントロを持ち、徐々にのめりこむようにテンポアップする構成となっている。
近藤真彦、東山紀之、堂本光一、今井翼などジャニーズの中でもどこか「王子」の要素を持った面々が歌い継ぐナンバーは、やはり刹那的な生への希求や渋さといったものよりも、若さゆえの愚かさ痛々しさを抱き、まだ初々しさを残したギャングの姿を思い浮かべるのにふさわしいように思われる。


若きギャングが主人公であった場合「アンダルシアに憧れて」いるのは、むしろこのギャング自身であると取るほうが物語は面白い。
スペインの片田舎から立身出世を夢見て出てきた坊やは、口先ではなにやかやと粋がり、無鉄砲なようでありながら、両親のいる田舎の風景を心から拭うことが出来ない。彼は荒々しいギャングの仕事にどうしてもなじむことが出来ずに、繊細な横顔と痛みやすい桃のような感性を未だに抱き続けたままでいる。
そんなとき、地下の酒場で出会った少し気だるい雰囲気の踊り子に彼は心を奪われた。年上の彼女もまたこの街の雰囲気に疲れ、逃げ出したい、と考える仲間だった。
ふたりの間で、まだ行ったことのない「アンダルシア」は夢の土地としてひとつの共通の認識となり、その「アンダルシア」を仲介とすることでお互いへの気持ちも膨らんでいく。
夢見たものと違う日常、磨り減っていく感情。
彼はある日、ついにギャング団を抜ける決心をして、そのことをカルメンに告げた。彼女もまた、彼に着いてゆくとそう言ってくれた。

だからこそ「ダークなスーツ」「ボルサリーノ」「いかす靴」は、この若きギャングの精一杯の花婿装束であったのだ。
これらは惚れた女と手に手を取って、夢の土地「アンダルシア」へ逃げるための彼なりの一番のいい格好であった。

そこに電話がかかる。今夜、団を逃げようと画策していた彼は、怯えながらもいま怪しまれてはならない、と仕方なく受話器をとった。

受話器の向こう側でボスが言ったのは、トニーがしくじりの末敵対するギャングたちに殺されてしまったこと、そしてスタッガーリーという敵のギャングが8時半に決着をつけようと望んでいると言うこと。
これを聞いた彼はどうしても行かなくてはならなかった。
トニーは、団の中でも同じ年で、一番仲のいい彼の親友であったのだから。

おそらく彼は、実際に人を殺したこともなかったろう。
だから、団を逃げるのに銃も持って行こうとは考えてもいなかった。
コルトは彼にとって持ち歩くものでさえなく、いつも金庫にしまってあるような「普段は使わない大事なもの」であった。
額縁の裏の金庫からそれを取り出して重みを確かめたとき、その現実感に彼の手は震える。
これをスタッガーリーという男の頭にぶち込むことを考える。
それはいささかリアルさを欠いたまま、彼の脳裏に情景を描いてみせる。
怖いわけじゃない、きっと帰ってこられるだろう、そうしたらそのまま彼女と逃げてしまうのだ、と虚勢を張って、うまく行く未来ばかりを繰り返し考え続けながら、彼のみずみずしい綺麗な手は血にまみれることをひどくおそれている。

港に着いた彼は囲まれていることを知る。
マシンガンが彼を狙っていることを知る。
ボルサリーノが弾け飛んだとき、彼が自分の死を知ったかどうかはわからない。

これは、馬鹿な若いギャングの成れの果ての物語だ。


だが、そこにもっと恐ろしい事実があったことを、命の灯が尽きる前に彼は瞬間的に悟ったろうか?
もし悟ったとしても、その血まみれの絶望が数秒しか続かなかったことを、彼はいっそ喜ぶべきなのだ。
それはもっと悲惨で、最低なストーリーに彼を誘ってゆく。


受話器の向こう側で声を震わせたボス。
しかし、ギャング団のボスともあろう者がそれほど簡単に声を震わせるだろうか。
港に着いたとき囲まれ青ざめていたボス。
しかし、ギャング団のボスともあろう者がこんな罠に安易にかかるのだろうか。

若きギャングは「スタッガーリー」という敵の存在を電話で聞かされただけで、それが「実在」するのかどうかすら確かめたわけではなかった。
ただ敵が「スタッガーリー」という男だと聞かされ、それがトニーを殺したと聞かされたからまだ見ぬその敵を憎悪しただけだ。

そう、全ては茶番だったのだ。若きギャングを誰もいない港におびき寄せるための。
ボスは声を震わせたり青ざめたりと下手な演技をしてみせた、トニーは殺されてはいないし、スタッガーリーなどという男は、そもそも存在してはいなかった。
もしも全てを事実と考えたとしても、そもそも下っ端である若きギャングが、そんな大事な復讐の場に借り出されるはずなどあろうわけがなかったのだ。
いくつも矛盾点はあった。だが、若きギャングはその若さゆえに無知を貫く。

おそらく若きギャングが団を抜けるという情報は既にボス以下幹部たちに漏れてしまっていたのだろう。
これは非情な制裁の物語だ。目をそらしたくなるほどに凄惨な、仲間内での裏切りとリンチの物語だ。
囲まれていたのが「おれたち」ではなく「おれ」でしかなかったことに彼はおそらく最後まで気づくことはなかった。
マシンガンを放ったのはトニーであったろう。泣きながら。むやみやたらに、彼はマシンガンを放つ。
それがギャングたちのやり方なのだから。

薄れていく意識の中、愛したカルメンと「アンダルシア」へ帰る若きギャングの片頬には、薄い笑みが刻まれていたに違いない。
おかあさん、と、彼は小さく呟いて逝ったのかもしれない。
せめてカルメンがいたことが彼の最後の救いであった、私たちはそう信じたい。
まだ幼く、きれいな手を持ったまま目を閉じた彼のために、そう信じてやりたい。

そのとき、彼女はどこにいたろうか?

彼の最期の望みどおりに、メトロのホームに立ち尽くし、真っ暗な瞳で、彼が来るのを銅像になるほど待ち続けていたろうか?


カルメン。
彼女もまた、秘密にギャングの一員であり、若い彼の団への忠誠心を試す役割を与えられた女性だったのではないだろうか?
そうでなければ、なぜボスたちはまさに今夜、彼が「逃げる」ということを知りえたのだろう?


若きギャングの成れの果て、手の中で潰れた名づけられぬ夢、アンダルシアの青い空。

彼が必死に握り締めたのは、からっぽの……ただ、からっぽの世界。

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