ハ ウ リ ン キ ャ ッ ツ

 五線譜という名の線路を辿り、きみと奇跡を探しに行こう。

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「アンダルシアに憧れて」物語Ⅱ―ロクデナシの夢


作詞作曲者である真島昌利の「アンダルシアに憧れて」は、のっけから速いテンポでエレキギターが絡み合い、噛みつくように歌うマーシーのパンクボイスが最初から最後まで熱いバージョンである。


この曲調から連想するのは、あちこちのマフィアと繋がりや取引はあっても、もはやひとつの団に所属することすらも「だるい」と笑うような、この街のはみ出しもの、20世紀最大の失敗作、一匹狼のロクデナシ。
不幸な生涯を送ってきただろうのに、それを表に出さない彼は、意見をころころ変える口ばかりうまいペテン師。
だから初めて会った酒場の女が、きらきらした目で「アンダルシアに憧れている」と言えば「一緒に行こうぜ」とまるで当てのない約束を交わす。
今夜ホームで待っててくれよ、必ずおれは行くからさ。
彼にとっては、この刹那刹那だけが真実、斬り込むように生きている彼にとっては。
彼は真摯に約束を交わす、アンダルシアというのがどんな場所かもよく知らずに、ただ、彼にはない彼女の「目的」や「希望」の匂いに惹かれて。

彼がダークなスーツに着替えるのは、マフィアの大物を相手にして、自分の身ひとつ、口先ひとつで渡り合っていかなくてはならないその商売ゆえだろう。
恰好は汚いよりもきちんとしているほうが商売は進みやすい、彼は今までの経験からそう知っている。
このとき、彼の頭の中にすでに、女と交わした戯言の約束のことなど跡形もない。
どうやって今夜を乗り切るか、彼はただ、そのことを考えている。

彼の部屋の電話が鳴る。商売相手のマフィアのボスだ。
彼が渡りをつけたはずのマフィア同士のある取引は破綻したらしい。
ボスの声は怒りと緊張でいつもの深みをなくし、震えているように聞こえる。
あちら側のボスの名前はスタッガーリー、スタッガーリーはなにやらご立腹の様子だ。トニーというこちら側の下っ端を人質にとり、取引のやり直しを要求している。
マフィア同士をようよう取り持った彼が出ていかなければ、どうしようもない場面になった。

電話を切って彼は額縁の裏の金庫に隠されたコルトを取り出す。
今までこれをちらつかせては多くの危機をどうにかおさめてきた。
なるほど、確かにこのコルトは己にとって命を繋ぐパスポートだが、彼の手が震えている理由は、本当はそのコルトに弾丸など一発も入っていないことをいつだってよく知っているからだ。

死んだって構わないのだ。
そう思っているやつほど、なかなか死ねはしない。

まるで世界を相手取って馬鹿にしているように、彼はわざとタクシーで立ち入り禁止の港にゆく。
マフィアたちは暗闇に包まれた倉庫に、まずお前が最初に入れと彼の背を押す。
あやしい空気をマフィアたちは経験で敏感に感じ取っている。

……つまりスタッガーリーは抗争したいのだ。
取引に難癖をつけてくるのは、この街のマフィアを統一するための戦争の理由がほしかったからに違いない。
彼はそのことを承知でなお、この取引を自らの手で執り行うことにしたのだろうか?


彼は頭上のボルサリーノを摘み、それを暗闇に放り投げる。空中のボルサリーノめがけ、一斉にマシンガンが火を噴いた。
背後から、そして前からも、銃撃の嵐が彼を襲う。
からっぽのコルトを構えることもなく、彼はゆっくりと前のめりに悠久のやわらかい闇の中へと倒れこんでいく。
ずたずたのボルサリーノさえ、まだ地面につかないうちに。

ああ、死ぬのも楽じゃあねえな、と彼は思う。
生きるのと同じくらいに、死ぬのにも一苦労さ。
彼のモノクロの現実にやっと色が施される。はみ出し者の赤い血で染められていく、切り取られたたった一枚のフィルム。

あの娘の言ってたアンダルシアはどんな場所だろう、と彼は薄れていく意識の中でやっとそのことを思い出す。
最後にした約束、カルメンの笑顔は異様に美化されて彼の心を汚す。
もう顔も思い出せない娘と青空の下で踊る夢を見る。ちらりとほほ笑む。ぜんぶ嘘だった、と思う。
その一瞬のち、すべてがまた黒く閉ざされる。
目すらろくに閉じないままで、ろくでなしはろくでなしのまま、最低に逝く。


どこまで乗ろうとアンダルシアには到着しない列車の出るメトロの駅で、ひとりの夢見るような眼をした女が人待ち顔をしていたことを、彼は永遠を半ば過ぎてもなお、知ることはできないだろう。

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