ハ ウ リ ン キ ャ ッ ツ

 五線譜という名の線路を辿り、きみと奇跡を探しに行こう。

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「アンダルシアに憧れて」物語Ⅲ―ハートブレイカー


クリアで乾いた曲調、張りのある歌声、ジャニーズや真島昌利が歌い上げる曲調と比較すると、どこか落ち着いたしっとりとした味わいのあるバージョン、山崎まさよしの歌う「アンダルシアに憧れて」は、少し大人のお話だ。
この物語の幕開けはたったひとつの真実の恋から始まるに違いない。


マフィアは深い眼差しをして少し訛った言葉で話す、壮年を過ぎた男だ。
繊細さと大胆さを併せ持ち、犯罪を行なうことに躊躇いを感じない鈍感さの一方で行過ぎぬ正義感とスタイルを掲げ、悪いことをすぐに忘れられる楽天的な思考を持った彼はもともとギャングに向いていた人種であったのかもしれない。
適当にある金、適当にできる女遊び、適当に楽しい人生、たが彼からは決定的になにかが欠けていた、無論欠けていたものは「愛」だった。

最初から大きな目で彼を無遠慮なほどに見つめて、ちっとも怖がろうとはしなかった可愛いカルメン。
地下の薄汚い酒場で彼女を見出だしたとき、彼の世界は一変した。
それはたった1行の文章によって戦争が起こることもあるというその事実に似ていた、たった1曲のロックンロールによって革命が始まることもあるというその真理に似ていた。
もはや彼にとっては娘ほどの年齢の彼女は、アンダルシアからこの街に来ていた。
偶然なことに、今では遠く記憶の彼方にかすんだ彼の故郷も、アンダルシア地方のある小さな村だった。
確かにふたりの言葉の訛りは似ていた、ふたりはそれを懐かしがり、小さなふるさとをそこに見出しては面白がった。

もはや怖いことなどはない。マフィアの団の中でも幹部となっていた彼は、遂にその世界からの引退を決意する。
ここまで生き残れたことこそが彼の強さを証明する証。
「もういいだろう」と彼は、今はマフィアのボスに就任したかけがえのない友人に言う。
「大事なものが出来たんだ」と照れたように笑う彼を、ボスというよりも長く側にいたともだちとして祝福する男がいる。

「帰ろう」と彼は言う。酒場の娘は目を輝かせる。
売られてきたようにこの街に流れ着いた彼女が故郷に戻りたがっていることを彼は知っていた。
例えば、彼女が自分を恋人と思っていなくてもいい、この先も思わなくてもそれでいい、と彼は思う。
ただ大きな愛で包みたかった。頭を撫で、自分の膝で安らいでくれる美しいものが欲しかった。

出発の宵、彼はゆっくりと支度をする。ひとりの男性に戻るための、それだけのためのボルサリーノ。
凛とした彼の姿を見て、彼女はどんな風に笑うだろう、と思うと彼の心はそれだけで躍る。

不吉に電話が鳴り響いた。明日にはもうつながらないはずの電話が最後に齎したのは、友人からのSOSであった。
「ヤバいことになった」
もう遠くへ行くお前の助けを借りたくはなかったが、とボスである友人は自分のふがいなさに声を震わせる。
「トニーのやつがしくじった」
トニーというのは友人のたったひとりの息子だった。それを聞いて、さすがの彼も息を呑んだ。
彼が団を離れるということが表に出てから、不穏な空気が団内に立ち込めていたことは彼も知っていた。片腕のいなくなるボスをいまなら叩けると、これからはおれたちの時代なのだと、あからさまに叫び出していたのがスタッガーリーとその一派だった。
ボスや彼がうかうかと見逃している間にスタッガーリーは強硬手段に出たらしい、それがこのトニーの拉致だった。

もう使わないと勝手に思っていたコルトを金庫から取り出した。
ギャングだった自分を封じ込めるように、このコルトは額縁の裏に封じて、そのまま行くつもりだった。
こんな日になぜこんな出来事が起こるのだろう、長年ギャングをやってきて、はじめて彼の頭をちらりとよぎる不吉な思いに、彼は自分で驚き、やがてこんなに弱気になるのも歳のせいだ、と無理やり納得して苦笑いを浮かべる。
長年使ってきたコルトには血が通っているように彼の手にしっくりなじむ。
なのに、胸を突くこの感情はいったいなんだ。コルトを持つ手が震えているのはどうしてなんだ。
怖いわけじゃない、と彼はひとりごちるが、ではその震えはいったい体のどこから来るのか、その説明を求められてもきっと何も答えられはしないだろう。

負けるはずはないと思う。
あいつがガキの頃から今までずっと、部下として使ってきたスタッガーリーなどに。
タクシーの中で彼は何度も不思議そうに窓の外を見る。今宵は街がまるで知らない場所のように思える。
夜が彼の顔をしてすぐそこまで迫ってきていた。

波止場に着いた彼は、長い経験から地に足を下ろした瞬間に囲まれていることを知る。
友人はいつになく夜目にも明らかに青ざめている、こっちはふたり、あっちはいったい何人なのか、味方の数が明らかに違いすぎることに彼らは愕然とする。
腹の底が冷え冷えとさめてきた。
つまりそれは、我が身内でスタッガーリーについたもののほうが断然に多いということだ。
裏切り者のスタッガーリー。
しかし、勝つのはどっちだ? その結果によって、歴史など簡単に変わるのだ。
何よりもおれたちが今まで、そういう世界で生きてきたのだ。

不気味に静まり返った倉庫の中に足を踏み入れる。ぷんと体に馴染みきった血のにおいがした、もうボスではなくなった友人は父親の顔をして訳のわからないことを叫びながら駆け出した。
ちらりと血まみれの足が見えた。どうせ、トニーはもう生きてはいまい。
暗闇からマシンガンが嘲るように火を吹いた。
友人の哀しみはたった10秒ですんだ。あいつは、トニーと同じところへ行くことができた。

彼は走り出す。
倉庫の出口へ向って、力いっぱい。血に足をとられ、もがき滑りながら。
それは彼が始めて死ぬことが恐ろしいと生々しく感じ、敵に背を向けた瞬間だった。


ボルサリーノが弾け飛ぶ。


ボルサリーノは月に照らされ四角く区切られた倉庫の出口に彼より先にひらひらとたどり着いた。
出口なのか?
と彼は思う。
あそこが出口か?
それとも入り口か?
どっちでも同じことだ。今となってはもう。

激しい痛みは体を電光石火に貫いていたが、彼が余計に痛んでいたのは恋ゆえだった。
撃たれていないはずの胸が一番痛かった。
誰か彼女に伝えてくれよ。
……ちょっと遅れるかもしれないけれど、必ず行くからそこで待ってろよ。
だが、その伝言を彼女に伝えてくれるはずの友人すら、彼にはもういない。誰もいない。
何も残っていない。
もう、この街には何も残っていやしない。

逃げるのではない、
生きるのだ、まずはあの光に向って進め。
彼女が待っている。
彼女が待っている。
彼女が待っている。
もういいじゃないか?
暗幕が引かれたようにすぐに全てが見えなくなった。


数日後、メトロの駅でボルサリーノを目深に被り、不自由に足を引きずった男と、娘ほどの年齢の若い女が振り返ることなくこの街を後にした光景を見たというものがいたが、新しいマフィアのボスの誕生に沸く裏通りでは、そんな瑣末な噂話はまるで昨日の新聞のようにゴミ箱に投げ捨てられ黙殺された。



……読み書きすらろくに出来ない彼女に読んで聞かせようとポケットに忍ばせたグラナダの詩集。
マシンガンの銃撃を受けたその本が彼のハートを堅固に守った。
いま、その一冊を高く掲げれば、穴が空きぼろぼろになったページから、詩の言の葉たちが、彼らに幸福に降り注ぐ。


うたを透かして覗くのは、ふたりしてあんなにも憧れて止まなかった、アンダルシアの青い空。

コメント

No title

こんばんは。こちらこそ嬉しいコメントありがとうございます。
(リンクの貼られ間違いじゃなくて良かった・・・)

「アンダルシアに憧れて」の物語、読ませてもらいました。
いや凄い!素晴らしい想像力ですね。
3者3様の物語があって、なるほど~と面白かったです。
自分が思ってた情景はやっぱりマーシーの物語が一番近かったですが
最後(3つ目)のこの物語の予想外に素敵なラストにやられました!!

もし今も内に秘めてるのなら
またいつかこういったマーシーの歌、新たに聴きたいですね。

No title

再びありがとうございます!
bambiさんにコメント頂くと「わあいわあい」な自分がいる……!

「素晴らしい想像力」→「おまえ、いつもこんなことばっかり考えてんのか」ということでもあると自分では思います。
でも「アンダルシアに憧れて」はあまりに素晴らしい曲なので、書きたかった、それを読んで頂いてほんとうにうれしい!

マーシーは「とりあえず忘れる」ことで前に進むタイプの人だと思うのですが、必ずその忘れていたことを思い出す人でもあるような気がします。そういうときに詩情豊かな曲、また聞きたいです。

関係ないですが私は今月16日にオフスプリングのライブに行きますよ。

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