ハ ウ リ ン キ ャ ッ ツ

 五線譜という名の線路を辿り、きみと奇跡を探しに行こう。

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アウトドア派1/全くのアホウみたいに。



海にいこうぜ。

そう言いだしたのが誰だったかさえ、よく覚えていない。いつもの変わり映えしない面子が集まって、対戦ゲームをやりながら、まずビール。それから焼酎。時々、古いロックンロールのレコードを気まぐれに回した。さらにビールに戻ったあたりでとうとう飲み飽きて、長い時間、みんなで床に寝転がったままぽつりぽつりと中身のてんでない話をしてた。
「今年、夏らしいこと、何にもしなかったなあ、俺ら」
「ゲームばっかりやってたな」
「終わっちゃったよ夏。もうかなり前に終わっちゃったよ」
あまり掃除に熱心じゃない部屋の主が、故意なのかどうか、掃除を見逃しているらしい電灯の笠の中で、小さな虫が何匹か死んでいるのが見えた。寝転んで天井を見上げていると普段見えないものがよく見える。誰かが起き上がってカーテンを少し開けて「朝だ朝がやってくる」などと言わなくてもいい当たり前のことを呟く。薄暗いというか、ほの明るいというのか、部屋の中に靄のように光が入る。
「アホウ、こんなんで終えてたまるかっ」
「なに言ってんだお前」
「まだ酔ってんのか」
「海に行こうぜ海。海海海。みんなでさ、これから」
「なに言ってんのコイツ」
「もてなすぎて頭おかしくなったんじゃないの」

しかし、頭おかしいのは、結局その場にいた全員で。朝から無言で輪になり、それぞれの財布をのぞきこむ羽目になったかわいそうな僕らは、レンタカーショップのお兄さんのやや憐みを込めた笑顔を向けられ、定員ぎりぎりいっぱいの軽自動車で海へ向かった。カーラジオから流れる天気予報は、雨が近づいていると言っていたのに、まるで海へ行くのが使命みたいな僕らは、厳粛な顔をして腕を組んだまま車に荷物のように押し込まれて、その実、ぜんぜんなにも考えちゃいなかった。
「寒ぃ」
「寒ぃな」
たどり着いた道の先、秋の海は遠くに雲が垂れこめていて、風が重い。全くロマンチックでもなく、どんな思想も呼び起こしはしない。僕たちはやっぱり無言で戦地へ赴く兵隊のように次々車から降りて、大いなる海に相対してさらに深い沈黙に沈む。
わー、と叫びながらとつぜんひとりが走りだし、靴を脱ぎすてて狂ったように波打ち際へ駆けて行った。僕たちがもう少し馬鹿だったら、きっともっとこの状況を楽しむことに必死になったに違いない。みんなで揃って海へ駆けだして、誰かを浅いところへ放り投げたりして笑い転げられたに違いない。
あるいは、僕たちがもう少しだけまともだったら、こんな場所へは来なかったんだろう。だって、僕たちはそれぞれ、海まで来てしまったいまもぼんやりと考えたりしている。どうしてこんなところへ来なくちゃいけなかったんだ。あの部屋でゲームをしていて何がいけなかったんだ。ただレコードを聴いていたっていいじゃないか。囚われていたいという希望のものが、囚われたままでいることの何がいけないんだ。

それでも僕らはだんだんと、ぎこちなく、この状況に慣れていく。ひとり、ひとり靴を脱ぎ、恐る恐る海のそばまで行ってみる。触れてみれば水はぎょっとするほど冷たいけれど、海というのは思っていたほど悪いものじゃないとわかる。僕たちは戯れ、丸く輪になって手をつなぎ、意味なし言葉や意味あり言葉を口々にしてぐるぐる回る。海に向かってただ、わめいたり呼びかけたりして少し笑う。時々、部屋やレコードのことを思い出して、急に居心地が悪くなる。海になんて来なくてもよかった。僕らはそれでもきっと、あのままやっていけたはずだった。でも、秋を内包した海の空気は残酷なほど僕らの頬にやさしかったから、僕らは再び勘違いに落ちる。


海にいこうぜ。海にさ。


どうして誰もかれも、すぐに「おとな」に慣れてしまえるんだろう? そうして、どうして僕らは、なかなか「おとな」に慣れないし、成れないままなんだろう?

こんな瞬間がもう再びないことを、みんながみんなよく知っていた。知っていて、いくらかでも先延ばしにしようと弱弱しく試みていた。

「これはきっといいことなんだ」
「僕らにとってきっといいことなんだ」

そう呟いている当のアイツの手がぎゅっと握りしめられて、みるみる血の気が失せていくのをぼくは見ていた。全くそろいもそろってアホウみたいだ、ぼくらは隅から隅までアホウばっかりだ。ぼくはそう叫びたかったけれど、口をつぐんだ。風が強くなりかかっていたからじゃない。ぼくの口はたぶん、大人になりかかっていたのだ。


僕らはともかくあのドアを開けて外への一歩を踏み出した。
そうして僕らは大人になった。
それがほんとうにあの日海でアイツが言ったようにいいことだったのか、いまだにぼくにはよくわからないのだけれど。

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