ハ ウ リ ン キ ャ ッ ツ

 五線譜という名の線路を辿り、きみと奇跡を探しに行こう。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

アウトドア派2/どうして部屋にいなかったんだ。



いまだに夢を見る。おまえと彼女が手をつないで暗い海の前に立っている。おまえはあの履き古したスニーカーを、彼女は俺にも見覚えのあるあのハイヒールを脱いで、砂の上に放り投げる。彼女は靴を脱ぐとき少しよろける。おまえが支える。おまえたちはなにもかもを共有し、了解したように少しだけほほ笑みあう。それからまた手をしっかりと握りしめて、迷いのない足取りで海へと向かっていく。どんどん歩いていく。

そうして俺は目を覚ます。ばかばかしいと思うだろうが、俺は大抵泣いている。俺の涙はそのとき、海の水のように塩っ辛い。しっかりと手を赤いひもでつなぎ合っておぼれ死んだおまえたちと同じ場所にいたんじゃないかと思えるほど、俺の涙は塩っ辛い。

「きみの携帯は、つながってほしいと思うときはいつもつながらない」
そう言っておまえは笑ってた。あの夜、俺の電話がやっぱりつながらなかったことにおまえたちはどんな表情を浮かべたんだろう。困ったように笑ったか。それとも泣いたのか。いまさらどうでもいいことだろうが、おれはあのときほんとうに10分くらい部屋を出ていただけだった。近所のコンビニに明日飲む牛乳を買いに行ってたんだ。だから携帯電話を部屋に置きっぱなしにして行った。天気の悪い夜だったろう。風も強くなりそうで。すぐに戻るつもりで、そんなタイミングでおまえから最後の電話が入るなんて思わなくて、だから、翌朝までおれは「着信アリ」のランプにさえ気づかなかった。くだらないだろ? くだらなすぎるんだ、だから俺はいまだに、おまえたちのことを忘れられない。

おれがあのとき必死でゲームをやってたと言ったら、それこそおまえたちは苦笑いするのだろうな。ハマってたんだ、有名なロールプレイングゲームに。久しぶりに。いい年して。あのときもブッ続けで10時間以上やってた。おまえたちが窮地に追い込まれて、ふたりとも精神的にも肉体的にもボロボロになって、死を口にするようになって、ぼんやり海にたたずんでいたころ、俺はゲームの世界に心を持ってかれてた。

でもさ、聞いてくれ。聞いてくれたっていいだろう。ゲームには主人公と、王子様とお姫様が出てきてさ。それぞれに自分の好きな名前をつけられたんだ。主人公は、もちろんおれ。その仲間の王子様とお姫様に、おまえと彼女の名前をつけていたんだぜ。なんてぇロマンチストなんだい、俺は、って呆れ、自嘲しながらさ。王子様とお姫様はゲームのラストで結ばれるはずだったんだ。そうするために主人公は悪を倒そうと決意して立ち上がる、あれはそんなゲームだったんだからな。おれは必死になって敵を倒しまくってた。早く強くなりたかった。少しでもいい剣を、いい装備を、高い経験値を、おまえたちふたりに与えたかった。そして、最高のハッピーエンディングを見たかった。王子様とお姫様の華やかな結婚式。俺は祈ってた。全くアホウみたいに祈ってた。祈ってたんだぞ、馬鹿野郎。祈れば願いは叶うんだ。そうじゃなきゃ、祈ることに何の意味があるんだ。おとぎ話が「めでたしめでたし」で終わらないなら、それはおとぎ話ですらないじゃないか。

あのゲームはいまもやりかけのままだ。王子様とお姫様が手を取り合う様を、おれはもう見られない。

どうしておれはあのとき部屋にいなかったんだろう。どうしておれはあのとき。どうして。俺は夜中にひとりで泣く。ご丁寧に、なにもかも遺してくれればいいってもんじゃない。おまえと一緒に聞きたいレコードがたくさんあったんだ。おまえと一緒に聞きたいレコードは、たくさんあったし、いまも増え続けているんだ。だから、おれは真夜中、ひとりで泣く。

前夜の雨でしっとりと湿ったびろうどのような砂のうえに靴がふた組。ひとつはスニーカーで、もうひとつは転がったハイヒールで。

おまえからの最後の留守番電話。無言の隙間を、波の音が埋めていた。高いハーモニカに似たすすり泣きの声が充満して、ひどくさみしい。

「……いいことなんだ」
「それはきっといいことなんだ」

なにが言いたかったんだ。ぜんぜんわからない。わからないから、今すぐ来てくれ。今すぐ来て、説明してくれ。なにがいいことなんだ。俺にはわからない。5年経った今も、俺には分からない。

夜の海はすべてを飲み込んでうねる。

全くアホウだ、おまえも彼女も。そして、もちろん俺も。そうだろう?


ほら、おまえと彼女が死んでから5年目の夜が明ける。そっちの調子はどうだい? 雨は降ってないかい? 風は強くないかい? 

今すぐ来い。


……今すぐ来い。今日は、一日中、部屋にいるから。遥かなものに耳を澄まして、あまりにも遠くへ旅に出たおまえたちの声を探して、一日中、おれは部屋にいるのだから。

コメント

No title

「きみの携帯は...」の一文にきゅんとなりました。
牛乳を買いに行ってたって所がまた...。

私。mashimaniaさんの長ーい文章を読むのが、結構、す...き...です...(突然の告白)

今回、あまりにも嬉し過ぎて、訳も分からず、猛ダッシュしてしてしまい(笑)今度は、もう少し落ち着きをもって臨みたいと思います!

No title

ぷにすけさん
突然の告白に撃ち抜かれたmashimaniaです。そのうち「結構」じゃなく「とっても」にしてみせられるよう、精進します! がんばる!

「アウトドア派」ああだこうだ、ぷにすけさんの最初のコメントで、私自身「あ、いろいろ話そう! って思ってくれてるひとがちゃんといるんだな」ってすごく勇気づけられましたよ! また「ああだこうだ」開催のときには、真っ先にコメント、待っていますよ!

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://howlincats.blog114.fc2.com/tb.php/342-b70d004a

 | HOME | 

Calendar

« | 2017-05 | »
S M T W T F S
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

Monthly

Categories

Recent Entries

Recent Comments

Recent Trackbacks

Appendix

ましま にあ

ましま にあ

Hey ho,let's go!

ましまにあと直接連絡を取りたい方は
mashimania(´・ω・`)hotmail.co.jp
(´・ω・`)を@に進化させて下さい!

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。