映画紹介「ロスト・イン・トランスレーション」
新宿の居酒屋で働いていたことがある。深夜を越しても当たり前のように客が来て、私も当たり前のようにいらっしゃいませと言った。一睡もしない街に確かに私は生活していたが、そのときはそれをおかしいとも思わなかった。
通訳の過程で確かに相手に伝えたかったはじめの意味がどんどん零れ落ちて行くように、私が新宿と言う街の中で失ったものも、やはりそれなりに大きかったのかもしれない。
「ロスト・イン・トランスレーション」で描かれるのは、おそらくそういう「ずれ」或いは「時差ぼけ」の感覚なのだろう。言葉が通じない、知らない国の知らない街。眠れない、眠らない人々と、お金があればたいていのことは出来る空間。だけど一人ぼっちで、本当はすがっていたくて、でもこの街は表層だけで美しいことはもう十分に知っているから、確かに自分の行き着く場所はここではなくて。
CM撮影のために来日した初老の映画スターと、ミュージシャンの夫と共に日本に来たはいいけどホテルに置き去りにされてばかりいる新妻が、旅行者どうし出会って、退屈凌ぎ。二人の間に流れる空気は恋と呼べるのかそうではないのか。「ゴーストワールド」でも好演していたスカーレット・ヨハンソンが微妙でいい表情を見せている。
東京という都市の持つ、もはや飽和状態の危うさを何とかフィルムに写し撮ろうとしたその努力を認めたい。新宿を離れて、私もまた気がついた。誰でも受け入れてくれる毎夜毎夜のネオンサインが明るければ明るいほど、孤独感が募ることもあるのだ、と。
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